HubSpot 乗り換え — 道具より先に「移らないもの」を数える。入れるときも、出るときも
HubSpotへ乗り換えるか、HubSpotから別の道具へ移るか。どちらの向きでも、失敗の原因は道具選びより「移らないもの」の見落としにあります。乗り換える前の判断、移らないものの洗い出し、切り替えの順番を整理します。
HubSpotへの乗り換えも、HubSpotからの乗り換えも、決め手は道具の比較ではありません。 先に確かめるべきは「今の仕組みに染み込んでいて、データとしては移らないもの」がどれだけあるかです。それを数えたうえで、乗り換えの手間が今の不満より小さいときだけ動く、というのが私たちの考えです。
先にお断りしておきます。私たちは自社の顧客管理にHubSpotを使っていません。 ですから、この記事に画面の操作や設定の手順は書きません(製品の画面は改定が早く、書いてもすぐ古くなります)。書くのは、乗り換えを検討している会社が、自分で判断するための基準です。
HubSpotの最近のAI機能そのものについては、HubSpotが「AIが最後までやる」側に舵を切りましたに書きました。この記事では機能の話はせず、乗り換えの判断に絞ります。
先に、言葉を揃えます
| 言葉 | この記事での意味 |
|---|---|
| HubSpot | 顧客の情報を記録する仕組み(CRM)と、メール配信や見込み客の育成を自動で行う仕組み(MA)を、ひとつにまとめた製品 |
| 顧客管理の道具(CRM) | お客さんの名前・会社・やりとり・商談の進み具合を記録しておく仕組み |
| MA | 資料請求した人に順番にメールを送る、といった「見込み客への働きかけ」を自動で行う仕組み |
| 連携 | 別の道具どうしが、データを自動で受け渡すようにつないであること。フォームの送信内容を顧客管理の道具に入れる、など |
| 乗り換え | 記録や仕組みを、今の道具から別の道具へ移すこと。この記事では、HubSpotへ入る向きと、HubSpotから出る向きの両方を指す |
乗り換えるべきかは、何で決めるか
「乗り換えるべきか」で迷っている会社の多くは、新しい道具の良いところを見ています。それ自体は自然ですが、判断の材料としては半分しかありません。残りの半分は今の道具をやめることで失うものと、切り替えている間に止まるものです。
乗り換えを考えてよい場面
次のどれかに当てはまるなら、乗り換えを検討する理由として十分です。
- 記録が複数の道具に散らばっていて、ひとつにまとめる必要がはっきりしている。 顧客管理は表計算のファイル、メール配信は別の道具、フォームはまた別、という状態で、それぞれをつなぐ手作業が毎週発生している
- 今の道具では、やりたい仕事の形がどうしても作れない。 「設定を工夫すればできる」ではなく、仕組みとして用意されていないことを確かめたうえで
- 契約の条件が変わり、払っている額と使っている範囲が釣り合わなくなった。 値上げや、使っていない機能込みのプランへの移行など
- 担当者が辞めて、今の仕組みを誰も説明できない。 この場合は乗り換えというより「作り直し」に近く、どのみち中身の棚卸しが要る
乗り換えても解決しない不満
逆に、次の不満は道具を替えても消えないことが多いです。
| よくある不満 | 道具を替えても残る理由 |
|---|---|
| 営業が入力してくれない | 入力の決まりと、入力する理由が現場に無いことが原因。道具が変わっても同じ人が入力する |
| データが汚い(重複・表記ゆれ) | 汚れたデータをそのまま移すと、新しい道具でも汚いまま。むしろ移行作業で混乱が増える |
| AI機能が役に立たない | AIの材料は過去の記録。記録が揃っていなければ、どの製品のAIも同じように外れる |
| メールの反応が悪い | 送る相手・内容・タイミングの問題で、配信の道具の問題であることは少ない |
最後の行は、特に強調しておきます。顧客管理の道具に付いたAI機能が効くかどうかは、道具の性能より記録が揃っているかで決まります。この点はHubSpot・SalesforceのAI機能は、中小企業に要るのかで詳しく書きました。記録が揃っていない状態での乗り換えは、問題の置き場所を変えるだけになりがちです。
何が移り、何が移らないか
乗り換えの見積もりで抜けやすいのが、ここです。「顧客のリストを書き出して、新しい道具に読み込めば終わり」と考えると、あとで困ります。
データとして移せるもの
一般に、次のものは書き出しと読み込みで移せます。ただし、移せることと、同じ意味のまま移ることは別です。
- 顧客や会社の名前・連絡先などの基本情報
- 商談の一覧と、その時点での段階
- メールの配信リスト(誰に送ってよいか、という同意の記録を含む)
ここで確かめたいのは、項目の意味が新しい道具でも同じかです。たとえば「商談の段階」は、道具ごとに用意されている区切りが違います。今の道具で「提案済み」だったものが、新しい道具のどの段階にあたるのか。これを決めずに読み込むと、数字の上では移っていても、誰も正しく読めない記録になります。
移らない、または移しにくいもの
本当に手間がかかるのは、こちらです。
| 移りにくいもの | なぜ移りにくいか |
|---|---|
| 自動の仕組み(「資料請求したら3日後にこのメール」など) | 道具ごとに作り方が違い、書き出せないことが多い。一つずつ作り直しになる |
| 他の道具との連携 | フォーム・広告・会計・チャットなど、今の道具につないであるものは、つなぎ直しが要る |
| やりとりの履歴(過去のメールの開封・クリックなど) | 道具の中にだけ記録されていて、移せないか、移せても形が崩れることが多い |
| 社内の「暗黙の運用」 | 「この項目は営業部だけが使う」「この印は要注意の客」など、誰かの頭の中にある決まり |
| 道具経由で契約しているもの | 道具をやめると一緒に止まるものが、契約の中に紛れていることがある |
いちばん見落とされるのは、表の後ろ二つです。
私たちの場合:道具をやめても消えなかったもの
これは顧客管理の道具ではなく、自社サイトの乗り換えの話です。私たちは2026年8月に、サイトをWixというサイト作成サービスから自前の仕組みへ移しました。
そのとき分かったのは、会社のメールアドレスの契約が、Wixを経由して結ばれていたことです。サイトの道具をやめれば、そのぶんの支払いも消えると思っていましたが、メールは仕事に欠かせないので消すわけにいきません。結局、Googleと直接契約する形に移しただけで、支払い先が変わったにすぎませんでした。
顧客管理やメール配信の道具でも、同じことが起こりえます。送信元のドメインの設定、外部の道具との接続、追加で買ったオプションなど、**「この道具をやめたら、何が一緒に止まるか」**は、契約と設定を一つずつ見ないと分かりません。経緯はなぜ自社サイトをAIで作り直したのかに書いています。
メールの送信元の設定は、乗り換えで止まりやすい代表です。新しい道具から送り始める前に、なりすましメール対策は、メールを送る部署の仕事の手順で、送信元の証明が新しい道具でも通るかを確かめてください。
乗り換えるなら、どの順番で進めるか
順番には意味があります。上から順に進めることをおすすめします。
| 順番 | やること | なぜこの順か |
|---|---|---|
| 1 | 今の道具でつながっているものを全部書き出す | フォーム・広告・メール・会計・外部のツールなど。ここで漏れたものが、切り替えの日に止まる |
| 2 | 移さないものを決める | 何年も触っていない顧客、使っていない項目、止まっている自動の仕組み。乗り換えは捨てる機会でもある |
| 3 | 項目の意味を、新しい道具に合わせて決め直す | 商談の段階、顧客の種類、失注理由の選択肢。ここを決めてから移す |
| 4 | 自動の仕組みを作り直し、少人数で試す | 本番の顧客に送る前に、社内の宛先で一通りの流れを確かめる |
| 5 | しばらく両方を動かし、片方を止める日を決める | いきなり切ると、漏れに気づいたときに戻れない |
| 6 | 古い道具の契約を、最後に解約する | 解約すると履歴が見られなくなることがある。必要な記録を手元に残してから |
外部の道具との連携については、もう一つ大事なことがあります。今の道具に、自動化の仕組みやAIエージェントがつないであるなら、**その接続に使っている鍵(外部から道具を操作するための合言葉のようなもの)**も棚卸しの対象です。古い道具を解約しても鍵が生きたままだと、どこで何が動いているのか分からなくなります。洗い出し方は自動化ツールとAIエージェントに渡した「連携の鍵」を棚卸しするにまとめました。
移行を外部に頼むときに確かめること
乗り換えを外部の会社に頼む場合は、見積もりの段階で次を聞いておくと、あとの食い違いが減ります。
- データの移し替えだけか、自動の仕組みの作り直しまで含むか。 見積もりが安いときは、前者だけのことが多い
- 連携のつなぎ直しは、どこまで含むか。 広告やフォームの側の設定は、範囲外になりやすい
- 移したあと、誰が運用の決まりを持つか。 項目の意味や入力の決まりを、引き渡しのときに文書で受け取れるか
頼む先の見極め方は、AIエージェント導入を頼める会社の見分け方の考え方がそのまま使えます。
HubSpotから出るときに、特に気をつけること
HubSpotは、顧客管理・メール配信・フォーム・ページ作成などが一つにまとまっていることが強みです。これは裏返すと、出るときに一度に多くのものが動くということでもあります。
- フォームやページをHubSpotで作っているなら、それも作り直しの対象になる
- メール配信の同意の記録は、新しい道具に確実に引き継ぐ。ここが崩れると、配信停止を希望した人に送ってしまうおそれがある
- 道具を分けて乗り換える(顧客管理だけ別の道具へ、など)場合は、分けた道具どうしの連携が新たに必要になる
まとまっている道具から出るときは、「全部を一度に移す」より、止まると困るものから順に移すほうが安全です。
まとめ
- HubSpotへの乗り換えも、HubSpotからの乗り換えも、先に数えるのは「データとして移らないもの」
- 入力されない・データが汚い・AIが外れる、という不満は、道具を替えても残ることが多い
- 移りにくいのは、自動の仕組み・連携・やりとりの履歴・社内の暗黙の運用・道具経由の契約
- 順番は、つながっているものの書き出し → 移さないものを決める → 項目の意味を決め直す → 試す → 並行して動かす → 最後に解約
- 外部に頼むなら、データの移し替えと仕組みの作り直しが見積もりのどこに含まれるかを最初に確かめる
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本記事の内容は2026年10月時点のものです。
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