AIをマーケティングに使う前に、決めておく4つのこと — 道具より先に「誰に・何を・どの順で」
AIをマーケティングに入れて成果が出ない会社の多くは、道具ではなく、その手前で止まっています。誰に売るか、何を約束するか、どの順で伝えるか、どこをAIに渡すか。この4つを決める順番と、決まっていないと何が起きるかを書きます。
「AIでマーケティングを効率化したい」というご相談を受けると、最初に出てくる質問はたいてい道具の話です。ChatGPTとClaudeのどちらがいいか。どの自動化ツールを使えばいいか。プロンプト(AIへの指示文)はどう書けばいいか。
どれも大事な質問です。ただ、私たちがダイレクトレスポンスマーケティング — 広告や文章を出して、その場で申し込みや購入という反応をもらう売り方のことです — を10年やってきて、いま自社のマーケティングをAIで回している立場から言うと、最初に決めるべきことは道具の外にあります。
結論を先に書きます。
AIは「売れる型」を速く回す装置であって、型そのものは作ってくれない。 先に決めるのは、誰に売るか → 何を約束するか → どの順で伝えるか → どこをAIに渡すかの4つ。この順番で決める。 ここが決まっていないままAIを入れると、的外れなものが、速く、大量に出てくるだけになる。
順に説明します。
「良い記事を書いて」で良い記事が出ない理由
AIに「良いブログ記事を書いて」「売れる広告文を考えて」と頼むと、それらしいものが出てきます。文法は正しく、構成も整っています。そして、たいてい何も起きません。
これをプロンプトの書き方の問題だと考える方が多いのですが、私たちの見立ては違います。「良い」の中身を、頼む側が決めていないのが原因です。
「良い記事」とは誰にとって良いのか。読んだ人に何をしてほしいのか。その人はいま何に困っていて、何を知らないのか。ここが空白のまま頼むと、AIは空白を「いちばんありがちな答え」で埋めます。ありがちな答えは、誰にも刺さりません。
人に仕事を頼むときも同じです。新しく入った担当者に「良い記事を書いて」とだけ言う会社はありません。誰向けか、何を伝えたいか、読んだあと何をしてほしいかを伝えるはずです。AIに対しては、なぜかそこが省かれがちです。
つまり、AIの出来を決めているのはAIの知識ではなく、頼む側が持っているマーケティングの判断です。
決める順番は4つ
私たちが自社でも、ご相談先でも、この順で決めています。
| 順番 | 決めること | 決まっていないと起きること |
|---|---|---|
| 1 | 誰に売るか | 全員向けの、誰にも刺さらない文章が量産される |
| 2 | 何を約束するか | 機能の説明ばかりで、買う理由が書かれない |
| 3 | どの順で伝えるか | 情報は揃っているのに、申し込みまで進まない |
| 4 | どこをAIに渡すか | 任せてはいけない判断までAIが勝手に埋める |
順番に意味があります。上が決まらないと、下は決められません。
1. 誰に売るか
いちばん最初で、いちばん省かれやすいところです。
「中小企業の経営者」「30代の女性」のような書き方は、決めたことになりません。範囲が広すぎて、何を書けばいいかが絞れないからです。決めたことになるのは、その人がいま何に困っていて、何を試して、なぜうまくいかなかったのかまで言えるときです。
たとえば「AIを入れたいが、社内に詳しい人がいない会社」と「AIツールを入れたが、使われなくなった会社」では、同じ「AIを使いたい会社」でも、刺さる言葉がまったく違います。前者には始め方を、後者には止まった理由を書く必要があります。
ここで決めた内容は、AIに渡す一番大事な材料になります。逆に言えば、ここが書けないうちは、AIに何を頼んでも精度は上がりません。
2. 何を約束するか
次に、その人に何を約束するかを決めます。約束とは、「これを買う(読む・申し込む)と、あなたは何を手に入れられるか」のことです。
ここでよく起きるのが、商品の機能や特徴を並べて終わるパターンです。「AIで記事を自動生成」「休まず動く」は機能であって、約束ではありません。買う側が知りたいのは「それで自分の何が変わるのか」です。
もうひとつ大事なのは、守れない約束をしないことです。AIは、頼めばいくらでも強い約束を書いてくれます。根拠のない数字や、言い切りすぎた表現も平気で混ぜます。何を約束してよいかは、自社の実績と、法律や広告の決まりを知っている人間にしか判断できません。ここは最後まで人が決める場所です(企画書で同じことが起きる話は企画書をAIに書かせるとき、任せてはいけない3つに書きました)。
3. どの順で伝えるか
誰に、何を約束するかが決まったら、どの順で伝えるかを決めます。
人は、知らない会社の商品をいきなり買いません。困っていることに気づく → 解決の方法があると知る → その方法の中でなぜこの会社なのかが分かる → 申し込む。この流れのどこで止まっているかで、打つ手は変わります。
| 相手がいる段階 | 必要なもの |
|---|---|
| 困りごとにまだ気づいていない | 気づかせる情報(問題の正体を言葉にする記事など) |
| 解決の方法を探している | 選び方・比べ方の判断基準 |
| 候補を絞っている | 実際のやり方、実績、向き・不向き |
| 申し込むか迷っている | 条件(価格、範囲、返金や解約の扱い)をはっきり書いたもの |
AIは、この表のどの段の文章も書けます。ただ、どの段が足りていないかは、自社の数字と顧客の声を見ている人にしか分かりません。足りているところにAIで量を足しても、成果は変わりません。
私たちのサイトでいえば、「選び方」の記事と「実際のやり方」の記事を分けて置き、最後に無料レポートへの導線を置いています。どの記事も、読者がいまどの段にいるかを先に決めてから書いています。
4. どこをAIに渡すか
ここまで決めて、はじめて道具の話になります。
渡す範囲を決める基準は、私たちの場合ひとつです。間違えたときに、取り返しがつくかどうか。
| AIに渡しやすい | 人が持つ |
|---|---|
| 決めた型に沿った下書き | 誰に売るか、何を約束するかの判断 |
| 案をたくさん出すこと | 出た案から選ぶこと |
| データの集計と要約 | 数字の意味づけと次の打ち手 |
| 表記ゆれや言い回しの直し | 価格・条件・固有名詞・数字の最終確認 |
| 決まった手順の繰り返し | 外に出す直前の承認 |
左側は、間違えても直せば済みます。右側は、間違えたまま外に出ると、お客さまの信頼や、場合によっては法律の問題に関わります。
この線の引き方は、AIマーケティング代行は、何を代行して何を代行しないのかでも詳しく書いています。
決まっていない状態でAIを入れると、何が起きるか
順番を飛ばしてAIから入った場合に起きやすいことを、構造として整理しておきます。
- 量だけが増える。 記事や広告文の本数は増えるが、どれも同じような内容で、問い合わせにはつながらない
- 社内の評価が「AIは使えない」になる。 本当の原因は型が無いことなのに、道具のせいにされて、取り組みそのものが止まる
- 確認の手間が増える。 何が正しいかの基準が無いので、出てきたものを毎回一から読み、毎回違う理由で直すことになる
- 道具の乗り換えを繰り返す。 出来が悪いのを道具のせいだと考え、別のAIに替える。前提が同じなので、結果も同じになる
どれも、AIの性能が上がっても解決しません。新しいモデルが出るたびに試してみる価値はありますが、型が無いまま入れ替えても、的外れなものが少し上手な文章で出てくるだけです。
「型」を書き出すと、AIへの指示がそのまま出来上がる
ここまでの4つを決めると、思わぬ効果があります。決めた内容を書き出したものが、そのままAIへの指示になることです。
私たちは、記事やメールを書かせるとき、毎回プロンプトを工夫しているわけではありません。「誰に向けて」「何を約束し」「どの段の読者に」「何を書いて何を書かないか」を書いた紙を渡しています。中身はマーケティングの判断であって、AIの専門知識はほとんど入っていません。
この紙があると、次のことができるようになります。
- AIを替えても、出来が大きく変わらない(材料が同じだから)
- 担当者が替わっても、同じ基準で確認できる
- 出てきたものを直すとき、「なぜ直すのか」を言葉で説明できる
逆に、この紙が書けないときは、AIの使い方ではなく、自社の売り方が言葉になっていないことが問題です。そこを言葉にする作業は、AIの導入より前の仕事です。
私たちが正直に書いておくこと
この記事で「4つを決めればうまくいく」と言うつもりはありません。決めた型が間違っていることもあります。誰に売るかの見立てが外れていれば、どれだけ丁寧にAIで回しても成果は出ません。
ただ、型が決まっていれば、どこが外れたのかを確かめられます。 反応が無かったとき、対象が違ったのか、約束が弱かったのか、伝える順番が悪かったのかを、一つずつ切り分けられます。型が無いと、外れたことは分かっても、どこが外れたかが分かりません。
AIを入れて速くなるのは、この「試して、外れて、直す」の一周です。一周を速く回せることには大きな価値があります。ただし、回す対象の型は、人が持っている必要があります。
まとめ
- AIは「売れる型」を速く回す装置であって、型そのものは作ってくれない
- 「良い記事を書いて」で良いものが出ないのは、プロンプトの問題ではなく、「良い」の中身を頼む側が決めていないから
- 決める順番は、誰に売るか → 何を約束するか → どの順で伝えるか → どこをAIに渡すか
- AIに渡す範囲は「間違えたときに取り返しがつくか」で決める。約束・条件・数字・外に出す直前の承認は人が持つ
- 決めた内容を書き出すと、それがそのままAIへの指示になる。書き出せないなら、先に整えるべきは自社の売り方のほう
- 必要なのは、AIの知識よりもマーケティングの知識
あわせて読んでいただきたい記事です。
- AIマーケティング代行は、何を代行して何を代行しないのか — 線を引く基準は「取り返しがつくか」
- セールスレターをAIに書かせる — 骨格は任せられますが、オファーは任せられません
- マーケティングを4工程に分け、AIエージェントを配置する — 全内訳と稼働スケジュール
AIに何を任せ、どこに人の判断を置くか。私たちが自社で引いている線と、つまずいたところをまとめた無料レポート『AIエージェント導入の実際』をこちらでお配りしています。A4・全11ページ、自己診断シート付きです。自社の売り方をAIに渡す前の点検に使ってください。
本記事の内容は2026年10月時点のものです。
この記録の仕組みを、御社のマーケティングに実装することもできます。 30分の個別相談で、自動化できる領域を診断します。初回セッションは有料です。
個別相談を申し込む